われわれ市民ランナーでさえ、マラソンの準備期間は数ヶ月を要する。
そして、その練習の成果を本番当日に合わせるために、ある人は何となく疲労を抜いてみたり、ある人は細心の注意を払ってテーパリング(調整)などを行う。
想いの強い大会では、スタートラインに立つことだけでも感極まってしまうほど。スタートに立つことが一つのゴールとも言われるほど、これまでの道のりは肉体も精神もすり減らしてきたことを実感することだろう。
そしてその行ってきた練習の答え合わせが目前に迫ってきている。これまで苦しかった練習や、調整期間に走りたくても走らないように我慢してきた想いを、一気に吐き出したいところである。
しかしながら、その想いに「待った!」をかけよう。
なぜなら。。。
ウォーミングアップ
さて、いよいよスタートまでの時間も迫ってきて緊張感も増してきている頃だと思います。
最高の状態を作り上げるために、ジョギングや入念なストレッチ、流しをしたりしてレースに向けて身体を温めておきましょう!
と言いたいところですが、フルマラソンに関してはウォーミングアップ不要論が定番となっています。
特に我々一般市民ランナーはスタートブロックに並び始めてからスタートまでに少なくとも30分〜60分ほど待機し、スタートの号砲がなってもスタート地点に辿り着くまでにさらに数分〜30分などど時間がかかることがあります。
その間にも温めた身体は冷え切ってしまい、あまりウォーミングアップの恩恵を受けることができなくなってしまいます。
それどころか、蓄えておいた糖質(グリコーゲン)を消費してしまうことになりかねないので、できるだけ温存しておきましょう。
市民ランナーのスタート位置に行くと、体を冷やさないように、その場で足踏みをしている人や、ストレッチをしている人をたくさん見かけますが、その中にポツポツと体育座りで膝を抱え込みながらじっと座っている人を見かけます。これは、緊張のあまり立っていられなくてしゃがみ込んでいるわけではなく、エネルギーの消費を極力抑え、スタート直前までエネルギーを温存するという行動の一つなのです。
東京オリンピック2021の際も優勝したキプチョゲ選手も軽くジョギングするくらいで、後は椅子に座っていたと聞きますし、大迫選手なども軽くジョギングするくらいだと聞きます。
体力はこれから始まる42.195kmの旅のために温存しておきましょう!
10kmまでの走り方
さあいよいよスタートです。
号砲までの待機時間は期待と不安などでアドレナリンが出ていることでしょう。
そこでありがちなのが、周りのペースにつられ、つい勢いあまって飛び出してしまい、オーバーペースになってしまうことです。
私は以前は「よし。行くぞ!」と気合を入れていましたが、最近はとにかく「冷静に冷静に」と自分に言い聞かせながらスタート時間を待ちます。
1kmを過ぎ腕時計の告げるラップを見て、「早い!」と驚いたことがある人も少なくないと思います。
そうなんです、周りの雰囲気やアドレナリンが出ていることで、自分のペースを見失いがちになってしまうのです。
フルマラソンでは最初の10kmはウォーミングアップだとよく言われますが、その中でも前半の3kmくらいまでは冷静にリラックスして走り出し、自分のペースを掴もうとすることが大切です。
ゆっくり走っているつもりでも、普段より早くなっていたりするものです。これが後半の失速につながってきたりもしますので、要注意。
可能であれば10kmくらいまでに自分の理想とするようなペースの集団を見つけ、そこに入って走り続けられるといいです。一人でペースを気にしながら走り続けるより楽に走ることができます。
これは普段一人で練習している人にとっては、大会ならではの特権のような感じですね。
集団がペースを保ってくれているので、楽な時も、苦しい時もそこから離れないようにし、30km過ぎてから余裕があれば飛び出していけばいいでしょう。
スタート直後は設定ペースより少し遅いくらいの気持ちで走り出しましょう!
ハーフ地点までの走り方
給水所ではできるだけこまめに飲み物を口にすることが大切です。
特にまだ経験の浅いランナーはスポーツドリンクのような糖分が含まれた物を摂取しましょう。
喉に渇きを感じる前に水分摂取をすることが大切だと言われています。異論もあるようですが、私は自身の経験から、こまめに糖分のある水分を摂取することをお勧めします。
脱水症や糖分(グリコーゲン)が枯渇するのをさまたげられかつ、後半の走りに影響を及ぼさないようにするためです。
甘さが口に残るのが嫌な人は、スポーツドリンクを飲んだ後に、水を飲みましょう!
前半のハーフはウォーミングアップの10kmから、そのまま極力エネルギー消費を考えたエコな走り、リズムに乗って流すような走りを心がけましょう。
それなりに練習を積んできているランナーは10km前後辺りで、一度身体が軽くなり、エンジンがかかってきたという印象を受ける方も少なくないでしょう。それでも一定のリズムを崩さず、冷静沈着に走り続けましょう。
あなたの中に潜む虎はまだ眠らせておいて下さい。
後半のハーフの方が前半より厳しいのはわかっているはずですので、前半は必要以上に身体的にも、精神的にも浪費することなく、適正ペースで走り続けましょう。
「まだ半分」ではなく「もう半分」と思えるような走りができると理想的です。
32km地点までの走り方
この区間までは、「眠ったまま走ろう。」などという言葉を耳にされたことがある方も少なくないのではないでしょうか。
この後の10kmに最大の山場が控えているため、ここまでにできるだけエネルギーの消費を抑えたエコな走りをしていこうということである。
しかしながら、この区間というのはどうしても、肉体的にも精神的にも疲労が現れる上に集中力も低下してくる。これまでの疲労と、この先の疲労を考えた際に、実に過去と未来の板挟みに苦しむ区間である。
この苦しい区間も、調子が良くなった区間も、ここでは一定のリズムを保持し、最後の10kmに備えるように心がけよう。
集団で走っているのであれば何も考えず、集団の中で息を潜めて、きたるべき時が来るのをじっと我慢して待ちましょう!
ここで調子に乗って飛び出してしまうと、最後の10kmの区間に、また苦しい波に襲われた時に対応できなくなってしまう恐れがあります。
後半のハーフは、できるだけ頻繁に糖質の補給(ドリンクやジェルといった補給食など)をし、脳や身体へのエネルギーを枯渇さえないように注力を注ぎましょう。
苦しい場面でも、余力がありそうでも、一定のペースを保ち最後の10kmに備えましょう!
最後の10km
この最後の10kmこそが、これまでしてきた練習の見せ場と言っても良いでしょう。
いよいよ、何ヶ月もかけて練習してきた成果を発揮する時です。
ここまでうまく走ってこれていたのであれば、「30kmの壁」と言われるここからこそが最も走りがいのある区間であり、自分の持てる力を存分に発揮し、ここまで自分を制御し蓄えておいたエネルギーの全てを出し切るシーンである。
そう。あなたの中の「虎」を呼び覚ます時間です!
日本人の気質から「30km以降は苦しい」とネガティブな思考に陥ってしまう方が少なくないと思います。しかし、ここは「ここからが本当のマラソンの醍醐味!」とポジティブに捉えて自分を鼓舞していきましょう!
油断をするとふくらはぎやもも裏がつりだしてしまいそうになるのを堪えて、集中してリズムよくゴールを目指します。
落ちてくるランナーを抜き去り、ゴールが見えてきたら、最後の一踏張りです。
泣いても笑っても、自己記録更新でも、思い描いた走りができなかったとしても、あなたが追い求めていた一つのゴールに辿り着くことができます。
ゴールの瞬間は写真もたくさんとってもらえます。素敵な笑顔やガッツポーズで決めましょう!
まとめ
- それぞれの想いを胸に迎えるレース本番、不安をかき消そうとするためだけのウォーミングアップであれば、我慢してエネルギー消費を抑えましょう。
- スタート直後、早る気持ちや周りの雰囲気にのまれ、予定のペースよりかなり早いペースで飛び出すことのないように我慢しましょう。落ち着いて走りまじめて下さい。
- 10kmまではウォーミングアップ。身体がランニングに順応してきて、ふと軽くなったとしてもペースを上げないように我慢して下さい。
- ハーフまでは極力エネルギー消費を抑えて、単調に自分のペースやリズムを刻むことに集中して下さい。
- 32kmまでは、疲労も現れ、集中力も切れがちになり苦しい時間が襲ってきたりもします。ふと楽に走れるランナーズハイの区間も現れるでしょう。しかし、苦しい時も楽に走れる時も、感情に振り回されることなく、じっと我慢の走りでペースを保ちましょう。
- ラスト10kmは思う存分力を発揮していい時間です。しかしながら一番苦しい時間でもあります。苦しさを我慢して力を出し切りましょう!
という訳で、我慢の走りとは何だかお分かりいただけましたでしょうか。
- スタート直後は、早る気持ちを我慢
- 中盤までは苦しい時も、楽に感じる時も我慢してペースを一定に保つ
- 最後はキツさを我慢して全力を出し切る
我慢の種類に違いがありますが、これが「我慢の走り」です。
逆に、これらを「我慢」という感覚で捉えないようにポジティブに考えると、最後に力を出し切るために、「楽な状態を長く引っ張る走り」ということになります。
フルマラソンの走り方。頭では理解できても、なかなかこれを体現するのは難しいですよね。
記録を狙おうとすると、どうしても前半突っ込み気味に入りたくなりますからね。
最後までいい走りができることを期待しています。
リタイア(DNF : Do Not Finish)
最後にリタイアについて少し触れて終わりにします。
初めから、リタイアするぞ!と意気込んでレースに参加する人はいないのではないかと思います。
そのため、身体に異常があった際、リタイアするという決断に至るのにも勇気が入ります。
何かが起きたとしても「ゴールするためにはどうするか」という思考が優先してしまうでしょうから。
そのため、勇気を持ってリタイアするという判断基準をいくつかピックアップしておきましょう。
- 熱中症などにより、頭痛やめまい、意識障害を感じた場合
- 走ることで痛みが増す場合
- 捻挫や肉離れなどのアクシデントに出くわした場合
無理をすると復帰するまでにより多くの時間が必要になってしまいます。
このようなポイントを意識し、リタイアする勇気も備えておきましょう。決して恥ずかしいことではありません。
私も以前、収容車にお世話になりました。やはり、「やめる」決断をするのに5km位はかかってしまいました。
その時はもう走れない状態だったので、とても助かりました。
いい走りをするためにポジティブな我慢をしましょう!
あなたの走りの手助けになれていれば幸いです。
42.195km。このレースに挑戦しているあなたは素敵です。